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2017年12月14日 (木)

映画『彼女が目覚めるその日まで』原作者スザンナ・キャハラン インタビュー

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2009年に「抗NMDA受容体脳炎」に罹患したニューヨーク・ポスト紙の記者、スザンナ・キャハラン。2009年当時、まだその病気は知られておらず、彼女も詳しい病状の診断がつかないままに、原因不明の神経疾患として精神科への入院を促されていた。両親や恋人の懸命なサポートもあり、あるドクターと出会った彼女は世界で217番目の「抗NMDA受容体脳炎」患者であると診断され、適切な治療を受け社会復帰を果たすことができたのだ。彼女は復帰後、「脳に棲む魔物(Brain on Fire)」(KADOKAWA刊)というノンフィクションを著し、「抗NMDA受容体脳炎」という病名の認知を世間に広めてきた。
彼女の著書を映画化したクロエ・グレース・モレッツ主演の『彼女が目覚めるその日まで』公開を前に、劇中にも恋人として登場し、現在は夫となっているスティーブン氏とともに来日した彼女に、映画について、そして病気について話をうかがった。



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まず、映画のことについてお聞きします。あなたの物語が映画化されると決定した時、どう思いましたか?

■スザンナ:最初はこの病気がハリウッド映画のテーマになって、スクリーン上で語られるなんてまず信じられませんでした。だから、話半分に聞いていたんです。でも、本格的に企画が進んでいって、本当に映画化されることが決定したときは、ものすごく興奮しました! 自分にとっては辛い時期だったけれど、それが映画になるだなんて、未だに信じられないです。夢を見てるみたいにね。


あなたの役をクロエ・グレース・モレッツが演じると聞いた時はどう思いましたか?

■スザンナ・キャハラン:クロエに決まった時は本当にワクワクしました。すごくアメージングな女優さんですから! 彼女の演技力は本当にすごいともともと思っていたんです。これは偶然なんですけど、彼女がオフブロードウェイで出演している舞台を観劇した時、一緒に行った友人に「彼女が私の役をやってくれたらいいのにね」なんて話をしていたんです。そうしたら、彼女が実際にスザンナ役を演じることになって。知らせを聞いてすごくうれしかったし、彼女は期待を超える芝居をしてくれたと思います。


プロデューサーのシャーリーズ・セロンやクロエとはどのような話をしましたか?

■スザンナ:クロエとは、配役が決まった直後にスカイプで話をしました。役作りをするうえで、病気を患っている人がどういう感じか、見た目はどのような感じかを気にしていたようで、いろいろ聞かれましたね。彼女は患者の身のこなしや発作のときはどういう感じなのかなどを正確に描きたいと言っていたので、入院中に録画されていた映像記録を送ったり、他の患者の映像記録を見てもらったりしました。彼女はとても緻密に演じてくれて、期待通り正確に再現してくれたと思います。
シャーリーズ・セロンとは直接はお話をしていないんですが、フェミニスト的な観点でこの物語を描きたかったようです。つまり、一人前の仕事を持った女性の生き方の物語としてとらえたようなんですね。一人の女性が強烈なトラウマ体験を経たあとで、自分の生き方を取り戻していく、その過程が印象深かったようです。


シャーリーズはあなたが生き方を取り戻すまでに興味を持ったとのことですが、この映画は病を発見するまでを中心に描いています。著書を読むとあなたが仕事に復帰するまでのお話も書かれていますが、このあたりが省かれたことについてはどう思いますか?

■スザンナ:そうですね、実際に病気が回復していく過程を映像で描くのが容易ではないということは理解できます。回復過程というのは、すべて頭の中で起こっているわけですから。でも、この病気も病名がわかったからすぐに100パーセント回復するということはないですよね。だから、回復過程があるということだけは、きちんと描いて欲しいとリクエストしました。その部分はちゃんと描かれていると思っています。


実際に出来上がった映画を初めて見た時はどのように感じましたか?

■スザンナ:シュールな感じがしましたね。幽体離脱をして自分の姿を見ているような、微妙な感じでした。


ご家族や、恋人のスティーブンさんはどのような反応をしていましたか?

■スザンナ:父と(再婚した)奥さんは映画を見ていないと思います。母は映画を観たあとで、細かいディテールについて「あそこはちょっと違うわね」などと言ってましたね。それは母なりの距離の置き方なんだと思います。(同室で取材を見守っていたスティーブン氏に向かって)スティーブン、あなたはどうだった?

■スティーブン:僕もシュールな感じがしたよ(笑)


次に病気についてお尋ねします。この病気「抗NMDA受容体脳炎」はあなたから何を奪い、何をもたらしてくれましたか?

■スザンナ:そうですね、プラスマイナスでいうとプラスだったと思います。まず、こうやって日本に来ることができたし(笑)。そんなふうに映画化や著作活動を通して得たことの方が多いと思います。
失ったものはやっぱりアイデンティティと時間でしょうね。一時期は自分のアイデンティティを失っていたけれど、これは再構築できました。時間は取り戻せないけれど…。でもまあ、全体で統括していうなら、やはりプラスになりましたね。


病院に行ってもなかなか正しい診断がなされなかったことに関してはどう思いますか?

■スザンナ:今思えばしょうがないことでもあったと思います。当時はこの「抗NMDA受容体脳炎」はとてもレアな病気だったし、その病気のことを知らない人も多かったですから。実際に体験した身としては誤診を受けるというのは恐ろしく、大変な体験ですけれど、私はまだいい方でした。誤診されたままで最終的にこの病名にたどり着けない患者さんもいたはずですから。


精神疾患を疑われた時に、あなたの両親が精神科には入院させないと頑張った理由はなぜなのでしょうか? そのおかげで結果として「抗NMDA受容体脳炎」という病名が判明したわけですよね。

■スザンナ:とにかく、娘をよく知ってくれていたというのが大きいかと思います。医者の説明がどうしても納得できなかったんでしょうね。精神疾患と言われても、それでなぜてんかんのような発作が起きるのか、合点がいかない、納得いかないという気持ちが強かったんです。だから、なんとかして正解にたどりつきたい、答えを見つけ出したいという気持ちで、ドクターに食い下がったんだと思います。


ちょうど日本でも『8年越しの花嫁 奇跡の実話』という「抗NMDA受容体脳炎」にかかった女性の映画が12月16日から公開されます。この映画も実話をもとにしていて、6年間昏睡していた女性の物語なのですが、あなたは1ヶ月で目覚めています。この違いはどこにあると思いますか?

■スザンナ:彼女の症例を詳しくは知らないので、何が違うかということは明確にはわかりません。一つ確実に言えることは、症状や回復の程度は一人ひとり違うということですね。


あなたの書籍やこの映画によって「抗NMDA受容体脳炎」という病気への理解が進んだという実感はありますか? 

■スザンナ:そうですね。私の活動のせいだけではなく、今、医療界に「抗NMDA受容体脳炎」という病気への認識が広まってきたと思います。これまでは、この病気の検査をしたいと思っても、ペンシルヴァニア大学で検査するしかなかったんです。でも今は免疫不全の検査キットの中に「抗NMDA受容体脳炎」という項目も入っているんです。とても検査がしやすくなっています。今は素早く病気を特定できるようになってきたと思いますね。
私は自己免疫脳炎関連の二つのNPO団体にも参加しているんですが、この病気に関する認知が一般の人々の間でも広がっていることを実感しています。私がこの病気に罹患した2009年は研究例が2件しかなく、その一件は日本の例でした。でも今は検索すれば、この病気の症例が何百件も出てくるんです。関連のフェイスブックページもあるし、2作の映画が作られてるんですから!


「抗NMDA受容体脳炎」以外でも、辛い病を抱える方たちに何か伝えたいことはありますか?

■スザンナ:病気というのは、とてもハードな体験です。その診断結果に納得できない場合は遠慮せずにドクターに聞くことが大事だと思います。説明を求めてもドクターが納得できる答えをくれない時は、とにかく他のドクターに聞いてみることをお勧めします。そうやって、対話のしやすいお医者さん、話をきちんと聞いてくれるお医者さんを見つけるんです。患者は医学の素人だから知らないことが沢山ありますよね。その素人の小さな疑問にも丁寧に答えてくれる良いドクターを探し求めていくことが大事です。患者や患者家族にきちんと向き合ってくれるドクターと話をするだけでも、ヒーリング的な効果もありますから。ドクターに疑いを持って疑問を投げかけるという行為は難しいかもしれませんが、自分のことを大事に考えてケアをしてくれるというドクターに出会うため、納得できるまで突き詰めることが大事だと思います。


2009年、24歳にして「抗NMDA受容体脳炎」の世界の217番目の患者となったスザンナ・キャハラン氏。ジャーナリストらしい明確な口調で、自身の体験や病気に関する思いをわかりやすく語ってくれた。インタビュー中もスティーブン氏と微笑みを交わす様子は、夫婦の強い絆を感じさせてくれた。過酷な体験を「あの経験は自分にとってプラスだった」と前向きにとらえ、「抗NMDA受容体脳炎」を世間に広める活動を続ける彼女は、聡明で強い、賞賛すべき女性だった。


【取材・文】松村 知恵美

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『彼女が目覚めるその日まで』
原題:Brain on Fire
公開:2017年12月16日
配給:KADOKAWA
劇場:角川シネマ有楽町ほか全国にて
Official Website:http://kanojo-mezame.jp/

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