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2014年10月 8日 (水)

『ぶどうのなみだ』三島有紀子監督インタビュー

『ぶどうのなみだ』三島有紀子監督インタビュー

2012年公開の映画『しあわせのパン』で、北海道の洞爺湖のほとり・月浦にある小さなパン屋さん夫婦の一年を描き、その独特の空気感で多くの人を魅了した三島有紀子監督。2014年10月11日公開の新作『ぶどうのなみだ』では、『しあわせのパン』に続き、大泉洋を主演に迎え、北海道の空知(そらち)地方の小さなワイナリーを舞台に、ワインづくりにかける男・アオと放浪を続ける旅人・エリカ、父の遺した畑で小麦を作っているアオの弟・ロクたちの日々を描いている。北海道の大地と緑のぶどう畑、雄大な青い空といった美しい自然の中で、かつて挫折を味わった人間たちの再生を“大人の寓話”として描いてみせた三島有紀子監督に話を聞いた。

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今回、ワインという題材を選ばれたきっかけを教えてください。

■三島:私はもともとワインが好きなんですね。それで、北海道でワインを造っているという話をプロデューサーの鈴井亜由美さんから聞いて、実際にワイナリーに連れて行ってもらいました。、辿り着くとそこにはとても美しいぶどう畑が広がっていました。そこの地名が空を知ると書いて「空知(そらち)」というとても素敵な名前だったんです
空知のの大地に立ってみると、すごく空を見上げたくなりました。足下に土があってその下には長い歴史が積み重なっている。自分の歴史やルーツである足下の地面に立って、空を見上げることで、過去から未来に繋がっていくという考え方が、体の中に入ってきたんです。
また、ワイナリーを訪ねた時に、一次発酵の様子を初めて見たんですね。ぶどうのジュースがワインになる瞬間なんです。これは「一度ぶどうとして死んで、ワインとして生まれ変わる瞬間なんだ」と心動かされ、“一度何かに挫折した人間がもう一度何かにチャレンジして再生する”姿をワイン造りを通して描きたいと思いました。


空から落ちてくる“雨粒”がひとつの鍵になると思うのですが、その雨粒がタイトルの「ぶどうのなみだ」や空知という地名とリンクしていると思いました。

■三島:今回、雨にはこだわりました。雨っていうのは、循環しているとあらためて実感したんです。空から落ちてきた液体を土が吸い込んで、ぶどうの木に吸い上げられて、ぶどうの一粒に凝縮される、そしてそのぶどうがワインになって人の口の中に入っていく。その循環が素敵だなあと。すべてのことが、ワインづくりに活かされていく、苦しんだ涙も喜んだ涙もワインの味わいになる。すべてのものが凝縮されてワインが出来上がるんですね。そこはものづくりや映画製作など、すべてに共通するところだと思います。
また、土は歴史の積み重ねなんですね。空知という土地は、かつて海だった時代があったのでアンモナイトが取れたり、石炭のできる時代があって石炭が取れたりする土地なんです。いろんな時代を経て、いろんな人が生きてきて、現在の自分がある。今の自分が何を積み重ねるかによって、これからの未来が変わっていく。
映画もそうなんですけれど、色んな先人たちから色んな作品を自分が受け取って何を遺せるか…。だから100年先の私みたいな生きにくいと思っているような人が、この映画から何かを受け取ってくれることがあればいいなあと思いながら作っていました。アオやエリカみたいな不器用な人間が、何か光を見出せたらいいのに、と思いながら、自分を鼓舞して撮影してたという感じです。


前作に続き、北海道という舞台で、ぶどうや小麦などの成長に合わせての撮影ということで、苦労されたのでは?

■三島:今回は、北海道の雄大な自然をシネスコサイズで撮りたいというのが、強い希望でした。もうひとつは、四季の移り変わりをちゃんと押さえたいと思いました。ドラマ部分に関しては、9月から10月にかけてと、12月に一回撮影したんです。でも風景に関しては一年間を通して、一ヶ月に一回くらい、「ふきのとうが出てきそうです!」「ラベンダーが咲きました!」という報せを受けては私とカメラマンの少人数で行って撮影をしていました。


毎月となると、北海道に住んだ方が早そうですね(笑)

■三島:でも、北海道に住んでいないからこそ見えることもきっとあるんですね。
空知で上映会をした時に「自分たちの住んでいる場所ってこんなに美しかったのか」と言って下さったのが、うれしかったです。“ぶどうのなみだ”自体も土地の方には当たり前のことで、その素敵さや生命力を見過ごしてしまうこともあると思うんです。
普段、都会の中で人工物の中で生きているから、実際に土に触れたり透明な風を感じることで気付けることもあるんだと思います。


自然の中の撮影で、一番大変だったシーンはありますか?

■三島:うーん、どれもとても大変でした…。例えば、大泉さんがぶどうの木に向かって話しかけるシーンがあるんですけど、すごくいい光が撮れているんですね。でも、ああいう風な光になる時ってなかなかないんです。だから、そういう光になった時に「あのシーン撮るよ!」と言う感じで、休憩中の大泉さんを大急ぎで呼んで、テストの時間もなく、説明してすぐに撮影に入るんです。で、撮影が終わった時にはもうその光はなくなっちゃってるんですよね。そういう撮影の繰り返しで、その瞬間じゃないと撮れないっていうシーンばかりでした。自然はコントロールできない分振り回される部分もあったんですけど、思いがけないギフトもありました。急に虹が出てきたりして、思いがけないカットもたくさん撮れました。根気よく自然を撮ってきて良かったーと実感しました。


主演の大泉洋さん、今回の映画ではいつものイメージと違う頑固で不器用な役ですが、大泉さんの俳優としての魅力はどういうところにあるのでしょう?

■三島:大泉さんは本当に太陽のような人なんですね。今回のアオという役は指揮者としての挫折を経て、ストイックでワインづくりに情熱を懸けている男なんです。そういうある方向に向かってストイックに頑張る人って、周りから見ると変だったり、ある種周りをハッピーにさせないところがあると思います。そういう役を本当に暗いイメージの人がやるとお客さんがついていけなくなることがあります。でも大泉さんのような陽性の方がやると、お客さんが主人公を嫌わないんです。お客さんが応援したくなるキャラクターに変えてくれる。どんなキャラクターも愛される人物像に変えてくれる、そういう意味でも唯一無二の役者さんだと思います。
また大泉さん自身が話してくれたんですけど、彼自身も人生の中である挫折があって、それを経て今のお仕事に就いて頑張っているという話を聞いて、「彼ならアオの役ができる」と確信しました。
しゃべることが得意な人なんですけど、しゃべらないシーンもとても繊細に演じてくれ、いろんな感情が浮き彫りになる。撮っていて本当に魅力的だといつも思います。


染谷将太さんを、アオの弟、ロク役に選んだのはなぜですか?

■三島:実は染谷将太さんは子役の時からチェックしていて、「相棒」にゲスト出演していた時に名前をメモしたことがあるんです。彼が19歳の時にもとても複雑な役をお願いしたことがあるんですけど、それをスルリとまるで自分の素から出ているかのように演じていて、すごい役者さんだなあと思いました。
大泉さんと染谷さんって、実際には20歳違うんですが、見た感じでは10歳くらい離れた兄弟に見えるなあと思っていたんです。染谷さんの役って、お兄さんのことを好きなんだけれども、音楽の才能への嫉妬や憎しみ、複雑な思いを抱いている役なんです。計算の難しい役なんですけど、その複雑な芝居のプランも彼ならやってくれるだろうと思ったんです。最初は「親子じゃないんですか?」って彼は言ってたんですけど(笑)。
彼は豊潤な水分を感じる湖のような目をしていると思うと、一瞬にして砂漠のような乾いた目になるんですよね。ひょうひょうとしながらも、いい意味での役者としての“業”みたいなものを持っている方だなあと思います。多分、ロクは染谷さんじゃないとできなかった役だと思います。


撮影中はすごい量のワインを飲まれたのでは?

■三島:撮影中はそれどころではなくって飲めなかったんですけど、ロケハンや取材ではたくさん飲みました(笑)
普通は撮影中、お酒を飲むことはないんですけど、安藤裕子さんや染谷将太さんは「本物が飲みたい!」と本物のワインを飲みながら演技をしてもらった時もありました。


丘の上に立つぶどうの木がとても印象的でした。

■三島:あのぶどうの木は神話のようなイメージにしたかったんです。父親のような存在であり、空知をずっと見守り続けているという設定なので。なので、実際にある木を美術さんがいろいろ飾りつけて足していって、イメージ通りにしてくれました。


他にも、美術やセットにはすごいこだわりを感じました。

■三島:私は普通よりも美術や衣装にもうるさいとスタッフに言われているらしいです(笑)。今回は大人の寓話にしたいと思っていたので、衣装や道具などもフランスの19世紀のワイン作りの様子をベースにしたんです。そのベースに様々な年代や国のものを散りばめました。どの時代なのか、どの国なのかもわからないようにしたいと思って、“ソラチという国”がもしかしたらあるのかなあと思ってもらえるといいなあと。


キャラクターの衣装の色にも、理由があるんですか?

■三島:エリカは大地の象徴で、放浪者なんだけれども、大地から湧き出るエネルギーを吸収して生きているような存在なので、赤。
アオは届かない空に向かっている空を駆ける人、というイメージで青。
ロクは運命を受け入れる人という感じで生成。
結果として、柔らかなトリコロールという感じになりました。色の配色にはけっこうこだわっています。背景も含めて、衣装の色合いなども話をして衣裳部と決めています。


音楽もすごく素敵でした。みんなが音楽隊として演奏する曲もすごく楽しかったですね。

■三島:安川午朗さんにオリジナルで作ってもらいました。みんなが演奏する曲とエリカのテーマだけクランクイン前にお願いしました。実際のぶどう畑の写真や目指している世界観の絵画や竪笛を吹くインディアンの精霊のイラストを安川さんに見せて、そのイメージの曲をお願いしました。“しずく”に関しては映像と音で表現しますので、音楽は大地と風を感じさせて欲しいとお願いしました。また劇中で使われる「カヴァレリア・ルスティカーナ」という曲がとても洗練された美しいクラシック曲なので、それとは真逆の大地と風を感じる曲にしてほしいと作っていただきました。
あの音楽隊の曲に関しては、腹の底からエネルギーを感じる曲にして欲しいと言いました。他の曲に関しては、安川さんが撮影現場に来て下さって、大地に立って感じるものを表現してくれました。


最後に、観客の方へメッセージを。

■三島:「ぶどうのなみだ」に込めたいろんな意味が、俳優たちの演じた繊細な心の機微によって、伝わればうれしいです。北海道の大地に生きる、不器用な男と女の挫折と再生、そして家族への想いを描いた"大人の寓話"を是非大きなスクリーンで楽しんでください。


【取材・文/松村知恵美】

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『ぶどうのなみだ』
公開:2014年10月11日より渋谷シネクイント、新宿ピカデリーほか全国にて
配給:アスミック・エース
公式HP:http://budo-namida.asmik-ace.co.jp/

©2014『ぶどうのなみだ』製作委員会

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