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2009年11月13日 (金)

『千年の祈り』ウェイン・ワン監督インタビュー

『千年の祈り』ウェイン・ワン監督インタビュー インタビュー

原作は第1回フランク・オコナー国際短編賞などを受賞したイーユン・リーの珠玉の短編小説。祖国から遠く離れた言語の異なるアメリカを舞台にある父と娘の絆と再生を描いたこの物語を、『スモーク』のウェイン・ワン監督が映画化。父シーと娘イーランの関係を中心に、人々の姿を静かに、しかし叙情的に映し出した。感情の動きや心のつながりの繊細な切り取り、それを観る者の胸にじんわりと染み込ませていく。シーを演じたヘンリー・オーはベテラン俳優らしい味わい深い演技を披露。イーラン役のフェイ・ユーも父に複雑な感情を抱く女性をしっかりと演じきっている。脚本は原作者のイーユン・リー自身が担当した。

今回は本作の監督であられるウェイン・ワン氏にお話を伺いました。

原作を読まれてすぐに映画化を切望されたとお聞きしました。原作のどのような所に惹かれたのでしょうか

■ウェイン・ワン監督(以下、ワン監督):「私は父親と非常に複雑な関係で、自分自身を原作の娘イーランに重ねて読んでいました。イーランと同じようにアメリカに移り住んでいるということもあり、映画化したいという気持ちに繋がったんだと思います」


父親のシーにはそんなに感情移入されなかったのでしょうか

■ワン監督:「シー役を演じたヘンリー・オーを撮っていくうちに、ヘンリーさんを通してシーに共感できるようになっていきました。
完成した時は撮影前よりも、よりシー氏の視点で描かれていたと思います。それでも本作はイーランが軸の物語に変わりはないですね」


現在TSUTAYAで以前監督された『スモーク』という作品が“名作100選”として紹介されています。その事をご存知でしたか?

■ワン監督:「今初めて知りました(笑)。でもすごく嬉しいよ!『スモーク』と『千年の祈り』はテーマ的にすごく似ている所が多いんだ。『スモーク』では父と息子、『千年の祈り』では父と娘。どちらも孤独を感じているキャラクター同士が、お互いに何とか繋がろうとしている。その点ではすごく似ているね」


ワン監督は、中国系アメリカ人・アメリカに住んでいる中国人を描く事が多いですが、それを繰り返す理由は?それは監督ご自身のアイデンティティが関係していますか?

■ワン監督:「それはおっしゃる通り私のアイデンティティが関係してると思います。自分でも意識している部分はありますから。父親の事、そして中国文化・伝統にいつも葛藤しています。
私の作品に大きな影響を与えた監督の中に小津安二郎監督がいます。彼も家族をテーマに何度も繰り返し描いていますよね。なので私の中では繰り返すというよりは、リサイクルしていると考えています。

みなさんも親との関係でつまずいた事や、日本伝統の習慣を疑問に感じた事もあると思います。人は自分自身のアイデンティティを常に模索している。本作は正にそんな作品で、そういった作品に仕上がったのは、私もまだアイデンティティを模索しているからなんです。両親に対しても未だにどう接していいか分からないからね」


本作は原作者のイーユン・リー氏に脚本もお願いされていますが、彼女は脚本を書く事自体初めてということで、大胆な試みだと思いました。その経緯をお聞かせください

■ワン監督:「私は小説家や原作者がいるストーリーを、自分で脚色するのがすごく好きなんですね。でも私や経験地の高い脚本家が担当していたら、展開が容易に予測できてしまうストーリーテリングやストラクチャーを応用すると思うんです。

そうする事によって、原作にあるユニークな部分が損なわれてしまうんじゃないか?と思いました。イーユンさんは非常に頭の良い女性で、ここが好き、ここが嫌いとはっきり物事がいえて、アイディアを彼女と分かちあう事によって原作よりさらに面白いストーリーになると思いお願いしました。彼女に脚本をお願いして一番の収穫は、予測が付かない物語になった事だね」


キャスティングについて、イーラン役のフェイ・ユーさん、シー氏役のヘンリー・オーさんは役と同じようなバックボーンがあり、そして今回他のキャストの方も役と同じようなバックボーンを持っている方を選ばれたとお聞きしました。自分自身をそのまま演じればいい状況で、監督はどのような演出をされたのでしょうか?

■ワン監督:「いつも俳優には「何もするな!そのままで」と演出しているんですよ(笑)。そのキャラクターが何をしようとしているか?そしてそのシーンで何を語ろうとしているのか?を僕は見せたいんです。つまりそのキャラクターのリアルを求めているからです。

そういった意味では、過剰に演技をする俳優は好きじゃないんです。だからキャスティングの段階から、キャラクターに近い人にお願いすれば、ある程度の境界線内で役作りが出来ると思っています。

監督の仕事は環境を整えて、俳優をある方向に押し出してあげる事だと思っています。例えば本作で登場してくるモルモン教の方は実際に教徒の方で、他の俳優に教徒役を演じてもらってもやっぱり何か違うんですよね。彼らには演技では出来ない何かがあるんですよ。それは無垢にモルモン教を信じている心なんだと思います」


モルモン教徒の方がシー氏と会話するシーンは印象的でした

■ワン監督:「あれは原作には無いストーリーで、実は脚本を書いてくれた原作者のイーユン・リーが実体験した話をベースにしているんです(笑)。
本作を“2人の中国人の映画”にはしたくなくて、アメリカの物語でもありますからね。リーさんに「アメリカの話も織り交ぜて行こう」と相談し、あのシーンを入れる事にしました。他にも科学捜査を勉強しているアメリカ女性とか、ミドル・アメリカ(中産階級)と言われている方々の一片をいくつか入れています」


フェイ・ユーさん、ヘンリー・オーさんとお仕事をされてのご感想をお聞かせ下さい

■ワン監督:「ヘンリー・オーですが、演じられたシー氏と同じようにご自身も文学の研究をしていたと聞いてとても心が動かされました。なので、シー氏を演じるにあたり、ご自身の実体験から役作りするのが楽しかったと語っていました。彼は研究をしつつ、舞台俳優としても活動していたのですが、あまり良い役はもらえず、台詞のあまり無い役や、舞台のトイレ掃除を長年あてがわれて相当苦労されたようです。それにお嬢さんが2人おられて、1人が未婚の30代ということで、すごく心配なされています(笑)。フェイ・ユーが演じたイーランに接する時は、本当の父親のような演技だったと思います。

フェイさんはイーランを充分に理解して演じていました。彼女は中国で昼メロのようなドラマに出演していたので、ドラマチックなシーンになるとTVドラマのスイッチが入ってしまい、「何もしなくていいよ!」と声をかけていたのを覚えています(笑)

現在の映画は型にはまった作品が非常に多いと思います。アクションもそうですし、無駄に説明が長いのもそうです。なので本作では、いらない物事は全て削除して、シンプルにする作業をしました。2人はそれに誠実に答えてくれたと思っています」


BGMもほとんど使用されていませんよね

■ワン監督:「確かに音楽使いも非常にシンプルにするよう心がけました。オープニングで使用されているピアノの曲は凄腕の演奏者にお願いしたのですが、すごくシンプルに仕上げてしまいました。ちょっと勿体無かったかな?(笑)
私は歳を重ねるうちに、シンプルにする事がとても重要に思えてきました。現代における映画は複雑になりすぎていて、シンプルに原点回帰するべきではないかと思います。
その事を理解しているのは、間違いなく日本です。特にアートにおいて、食べ物において感じます。最近の日本映画はちょっとクレイジーだけどね(笑)」


ワン監督は中国出身ですし、プロデューサーは日本人と、様々な国の方が製作に携わっていて、正に本作のテーマにシンクロすると思います。このことが本作にどのような良い影響をもたらしましたか?

■ワン監督:「本当に多くの国の方に参加していただいて、奇妙だけど良いミックスだったと思います(笑)。実際このことが本作にどのような影響を与えたか分かりませんが、中国人だけが製作に参加するよりは良いと思います。
実は中国が出資を急に取りやめた事件があって(笑)。それは中国側が「共産党に関する台詞を変えろ」と言ってきたので、私が「それは絶対に出来ない」と言ったからなんですがね。
だからこそ、こういったグローバルなコネクションで、色んな所からのサポートを受ける事が出来るのは非常に良いことだと思います」


『千年の祈り』 
配給:東京テアトル
公開:2009年11月14日
劇場:恵比寿ガーデンシネマほか全国にて順次公開
公式HP:http://sennen-inori.eiga.com/


『千年の祈り』
配給:東京テアトル
公開:2009年11月14日
劇場:恵比寿ガーデンシネマほか全国にて順次公開
公式HP:http://sennen-inori.eiga.com/
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