ベルリンの壁崩壊20周年×映画『誰がため』公開記念トークショー
■日時:2009年11月9日(月)
■場所:シネマート銀座試写室
■登壇者:蟹瀬誠一氏(ジャーナリスト)、芝健介氏(東京女子大学教授)

第二次世界大戦下、ナチス・ドイツに占領されたデンマークで、ナチスに真っ向から立ち向かった実在のレジスタンス、フラメンとシトロンの儚い運命を描いた、『誰がため』が12月シネマライズ他にて全国順次公開となる。
本作は、語ることの許されなかったタブーとされる史実を65年経った今、当時を知る関係者の目撃証言に基づき、映画化となった。本作の公開に先立ち、「ベルリンの壁崩壊20周年」をむかえる11月9日、ベルリンの壁を知らない20歳前後の学生たちを前に、蟹瀬誠一氏(ジャーナリスト)とナチズム運動、ユダヤ人問題史等ドイツ現代史の第一人者である芝健介氏(東京女子大学教授)による【「ベルリンの壁崩壊20周年」を機に考える第二次世界大戦】と題した、トークショー(Q&A)が行われた。
本イベントでは、今まで知る由もなかったヨーロッパ周辺でのレジスタンス運動が描かれている映画として、またベルリンの壁を知らない世代に向けて戦争とは?ということを改めて考えもらう良い機会となり、学生からの質問が飛び交う有意義なイベントとなった。
■蟹瀬:「ベルリンの壁が崩壊してから20周年という年に、このような映画が公開されるというはとても意義のあること。私もジャーナリストとして現地にも行きました。この映画では他の国のこと、歴史の教科書には出てこないことが描かれています。デンマークの2人のレジスタンスが出てきますが、私たちの知らないだけで多くのレジスタンスがいたのでしょうね?」
■芝:「日本ではホロコースト絡みで、ユダヤの大量虐殺のときのワルシャワ・ゲットー蜂起などが知られていると思いますが、レジスタンス運動というのは徹底的に鎮圧されてナチスに対する抵抗運動は成功したものが少ないんですよ」
■蟹瀬:「世界が分断された第二次世界大戦には大きな負の遺産というものがあります。一つはソ連とアメリカの代理戦争の場となったベトナム、もう一つが同じ国でありながら大きな壁で東と西に分断されたドイツ。これらは、不思議なことにどこかで崩壊するんですね。大きな軍事力を持ったアメリカが敗北し、ソ連の敗北によって東ドイツが崩壊し。今、唯一残っているのが朝鮮半島ですよね。実は我々日本に一番近いところに“負の遺産”が残っています。時代や場所は違えど、ドイツのような状況、ナチスの影響下にあるレジスタンスの姿を描いている映画を見て学ぶことも多いですよね」
■芝:「そうですね。自由と国民として安全ですよね」
■蟹瀬:「タイトルにもなっている「誰がため」は、そう考えるととても考えさせられるタイトルですよね。入ってくる情報によって自分が正義だと思っていることが、実は正義ではなかった。この二人の行動はどう考えればいいですかね?悲しいですが、情報操作に躍らされてしまったと言ってもいたしかたがないと思いました。
僕がこの映画を見て、思ったのはやはり「自由」とは何なのだろういうことですよね。皆さんは「自由」とはどういうことだと考えますが。「自由」とは結構大変なもので、我々は「自由」がないことで楽ができている側面があると思うんです。ナチスに対して批判的な、心理学者エーリッヒ・フロムが「自由からの逃走」という素晴らしい作品を残されています。人間というのは全てが自由で、全てを自分で決めなくてはいけないとき、とても重荷になる。むしろ他の人が決めてくれて、それにのっかっていた方が楽である。こういった気持ちが広がって、ナチズムというものが大きなムーブメントになるんですね。ここにいる皆さんも例外でなく、あの時代に生きていたらあぁなっていたかもしれない。楽なんですよ。「自由から逃亡」した結果がナチスで、「自由から逃げなかった」のはレジスタンス。何かこの2種類の人間に分けたのでしょうね」
■芝:「権力からの自由と、究極の自由である完全な私的空間を奪われそうなったときに行動する2つのベクトルがあると思います。デンマークはナチス占領の見本として、自由が結構許されていたのですが、検閲が厳しくなってきあたりから、市民の抵抗運動も激しくなってきたんですね」
■蟹瀬:「戦後、日本ではアメリカが「また日本が戦争に突っ走るのではないか」ということで、愛国心を取っ払おうとしました。だから、皆さんがストレートにスッと「愛国心」という言葉に入っていけない状況を作り出されたような。君が代・日の丸と言ってもわだかまりが残るし、かと言って、ワールドカップになるとみんな日の丸を振りはじめるから不思議で…。この映画を見て、もう一つ「愛国心」というものを考えされましたね。
映画産業において、ナチスやそれらをテーマにした作品がとっても多く作られるのはナゼなのでしょうか?毎年毎年、日本が東京裁判について戦争についての映画を公開するかと言ったら産業構造が違うからなんとも言えませんが、出てこないですよね。でも、ナチスに関しては、作品として多くが作られ高い評価を得ている。その辺の違いはどうなんでしょうか?ナチスのやっていたことは、そんなに特殊なことだったのでしょうか?僕は必ずしもそう思わないのですが」
■芝:「ドイツの場合は世界戦争を2度起こし、大量虐殺も犯している。そいう意味での犠牲になった人、ナチスから被った傷がまだまだ残っている、直接体験した人々が多く生きていることが大きく作用していると思います。一方で、犯罪が相対化していくのではなく、ナチスの時代が歴史化・相対化されるということですかね。ここにもベルリンの壁を知らない世代の方が少なくないと思いますが、ドイツで若者5000人に行った調査で、ヒトラーを知らないという人・ベルリンの壁が誰によって作られたのかなども知らない、間違った答えをする人が多くいたんですね。ナチの時代の歴史的な知識が共有されなくなってきたことも状況が進行していることもあるのでしょうね」
■蟹瀬:「起きた事実100%をしることは難しいですが、知ることの重要さはありますよね。以前、ネオナチを取材に行ったとき見た光景として、「ナチによる大量虐殺は無かった」という教えを信じている若者がたくさんいるワケですよ。ちゃんと授業みないことをやっているんですよ。事実をきちんと知ることの重要さは改めて平和なときに、身の回りに実際に起きていないときに、実際に起きているとき以上に重要なことなのかなと思います。歴史化していくのは一つのプロセスとしてしかたないが、こういう時代にこういう人々がいたという事実を、私たちは素晴らしい映画というメディアを通して知ることができるのでぜひ多くの若者に見てもらいですね。エンターテインメントとしても完成度の高い作品です」
■生徒:「日本は他の敗戦国と違い、首都を占領されていません。だからこそ、映画の中の様な闘争がなかったんだと思います。中途半端な和平のため、愛国心が生まれてこず、自分の中で何が正しいとかを考えることなく、言われたままのことを受け入れてしまったがたけ、今のような日本になってしまったと思うんです。それぞれの立場で正しいと思ったことをやっているということを認識すれば、国際情勢も良くなってくると思います。だから僕は自分で実際目にしたものしか信じない様にしています」
■蟹瀬:「自分の判断軸をどう持つか。あの人がこう言っているから正しいとかあるかもしれないが、どうやって自分で判断するのか?最終的には誰がみて正しいのかというときに、歴史感というのは自分で見て自分にとって本当に正しい、若いときから訓練していって欲しい。それは必ずしも正しいとは限らない、あるときから、または勉強していきながら意見は変わるかもしれない。そんな中で絶対的な価値観があるか…。これは私にも分からないところがある。たとえば「人は殺してはいけない」と子供のころから教えるが、戦争では人を殺すことは一応合法、死刑で人を殺すことも殺人だけど合法。他人の命を奪う行為が正しいことなのか悪いことなのか線がハッキリ見えなくなる。歴史はそれの繰り返しなんですよ。お互いが自分を正しいと思っている場合と、ある一定の人間が狂信的に正しいと信じて、それに多くの大衆が引っ張られてしまう。ナチスもそうですし、日本の戦時中の思想・情報操作が行われていた。情報というのはどうやってきちんと手に入れるかにかかっている。情報の共有が大切。人間って簡単に洗脳されちゃうんですよ。
先ほど言われたように、実際に現場を自分で見てみるのは大切ですよね。旅費はかかりますが(笑)若いうちにやって欲しいですね」
■芝:「そうですね。学生のうちですよ(笑)」
■生徒:「個人的に人は殺していけないと思っています。二人は英雄っぽくなっています、本当に英雄としていいのかどう思われますか?」
■蟹瀬:「本当に難しくて自分の中で答えが出ていない。自分の妻・子供を殺されたら犯人を殺したいと思ってしまうと思うんですね。一般論で言えば、そんなことはしてはいけないと言われるんだろうけど、自分の中の気持ちとしてはやってしまうだろうと。それが守るべき者が家族・祖国・民族である場合となってきて、大きなムーブメントになるんだろうと思うんですね。その一方で、ガンジーやマンデラのように非暴力主義というので、世の中を変えた人たちもいる。こういう人たちはやはり英雄だと思いますね、僕は。マザー・テレサのように一人の人間ができることって、ものすごい偉大なことがあるんだなと。それは人類にとって希望だなと思う。たくさんの人が集まらないと何か出来ないと思いがちだが、実は一人の情熱を持った揺るぎない信念を持った人がいるお陰で世の中が変わっていく。間違った信念を持った人だとヒトラーみたいになってしまったり、ポルポトのように残虐なことをしてしまったりするんですがね。人間一人が持っていると力のすごさですよね、良い場合もあるし悪い場合もある、なかなか自分の中で答えは出ていないですね、色んな現場を見てきての僕自身の気持ちです」
■芝:「教育に携わっているものとして、こういうことに関心を示してくれる若者がいて嬉しく思い感謝しております」
『誰がため』
配給:アルシネテラン
公開:2009年12月
劇場:シネマライズほか全国にて順次公開
公式HP:http://www.alcine-terran.com/tagatame/




コメント