第46回ニューヨーク映画祭 『CHE』ほかカンファレンス・レポート
9月26日からニューヨークリンカーンセンターで行われた第46回ニューヨーク映画祭(NYFF)。
各作品ごとに行われたカンファレンスの模様をレポートします。
『CHE』
(邦題『チェ 28歳の革命』、『チェ 39歳 別れの手紙』)
常にチャレンジを続けるスティーブン・ソダーバーグ監督が挑んだのは、キューバの革命家チェ・ゲバラの、激動の人生を描いた『CHE』。資金問題などで構想から実現までに約8年を要した同作は、2部構成で4時間半の超大作となった。前編『チェ 28歳の革命』の上映後、昼食をはさんで後編『チェ 39歳 別れの手紙』の上映と異例の展開だったため、途中で居眠りしないかと心配する人も多かったようだ。しかし、アカデミー賞のノミネートは確実といわれている主演のベニチオ・デル・トロの迫真の演技は、長さを感じさず、心配は無用だった。
2部に分けた理由については、「多様な顔を持つチェ・ゲバラは、5時間でも描ききれない人物だが、前半は、伝統的なハリウッドの形式で描いた戦争映画にしたつもり。後編は、完成された形というよりは、よりチェに近づいていったドキュメンタリー的な要素の強い形で、好きなように撮ることで、違うメッセージを送りたかった」「ベニチオとは気心が知れているので、きっちりチェという人物について話し合った結果、彼の医師として素顔に重点を起いて描いた」そうだ。長さのこともあり北米での配給先が決まるか懸念されていたが、1週間に一度だけ2部連続での上映、後は1部づつの上映という形式で、公開が決定した。それについて監督は、「眠くならなかったの? 嬉しいな。こんな長い映画を見せられて1日中映画館の拘束される観客は、どこかチェが自分の部下に要求してことと似ているかもしれない」とはにかんだ。ソダーバーグ監督は、気難しい雰囲気とは違い、外で待つファンやカメラマンの要望にも気軽にこたえるなど、ざっくばらんな人柄がうかがえた。
『Happy-Go-Lucky』
マイク・リー監督といえば、ジャーナリストの愚問を却下してしまうほど気難しいことで有名だが、過去に同映画祭に参加した経験から、「NYのジャーナリストは、一番いい質問をしてくれるから楽しみ」と更なるプレッシャー発言。当日はあいにくの大雨だったが、サリー演じる自由奔放な保育士が繰り広げるドラマ『Happy-Go-Lucky』は、リー監督にしては珍しいコメディ・ドラマで、会場には笑いが一杯。「気持が沈みがちな雨の日に、楽しい映画をありがとうございます」と言われ、「僕は、両面持っているから。気難しいだけじゃないんだよ」と超ご機嫌だった。
『Ashes of The Redux』
ウォン・カーウァイ監督の代表作といえば『恋する惑星』、『ブエノスアイレス』だが、本人いわく、原点はマーシャルアーツ。『Ashes of The Redux』は久々のマーシャルアーツ映画で、アクションがほとんどなく、武の道を極めながらも愛、人生、死に悩む人間模様を、独特のタッチとカメラワークで描いた作品。1994年製作の『楽園の瑕』で未使用だった大量のテイクを再編集して完成させたもので、亡レスリー・チャン、トニー・レオンほか、同作が女優引退作となったブリジット・リンらが出演している。当時人気の絶頂だったブリジットは、「5本の作品を掛け持ちしながら同作に望んだこと」、カーウァイ監督の長年の相棒で撮影監督のクリストファー・ドイルは、「はじめてのマーシャルアーツの撮影に大いに戸惑い手探りで作品を作り上げていった」ことなど、懐かしい思い出話を披露してくれた。

引退したブリジットが参加したため、香港のマスコミが殺到。その姿を楽しそうに撮影するドイルの姿が印象的だった。ちなみに、カーウァイ監督は2004年にキムタクこと木村拓哉と『2046』でタッグを組んでいるが、「また一緒に仕事をする予定はありますか?」と問いに、「もちろんだよ。決まっているじゃないか!」と力強く答えてくれた。
『Changeling』
『ミスティック・リバー』、『ミリオンダラー・ベイビー』、『父親たちの星条旗』、『硫黄島からの手紙』とアカデミー賞の常連となったクリント・イーストウッド監督を一目見ようと、劇場はほぼ満席。さすがは往年の2枚目俳優で、インタビュー中はユーモアを交えながらも、背筋をピシッと伸ばし貫禄十分だった。
アンジェリーナ・ジョリーを主役に迎えて描いた『Changeling』は、1928年にロスで実際に起こった事件を基に描かれた人間ドラマ。「当時ロスでは色んな残虐な事件が起きていて、この事件についても聞いてはいたが、真実は知らなかった。行方不明になった息子を探している母親が、警察の面目を保つために違う子供を押し付けられていたなんて、信じがたいと思った」と映画化への経緯を語った。主演のアンジェリーナに質問が及ぶと表情が緩み、「彼女はタブロイド誌でしか価値のない女優のように扱われているけれど、素晴らしい才能を持った女優だよ。カメラの前に立ったら、同役になりきっていた」と大絶賛。彼女の熱演は誰もが認めるところで、アカデミー賞の呼び声も高い。
次回作『Gran Torino』で監督と主演も兼ねるイーストウッド監督は、「『Changeling』で若い才能(子供たちも多く出演)を目の当たりにしたら、やっぱりカメラの後ろにいたほうがいいんじゃないかと思ってしまった」と弱気発言も。また、マッチョな作品を監督していた昔に比べて、女性の視点で描く作品が多くなっている理由について問われると、「確かに『マディソン郡の橋』では男性の目から見た男女の恋愛を描いていたけれど、女性の視点から描かれる作品が少ないと感じたし、とても興味があるんだ。もともと僕はフェミニストだけどね」と、周囲の笑いを誘った。
『The Wrestler』
ベネチア国際映画祭で金獅子賞を受賞した『The Wrestler』で、ダーレン・アロノフスキー監督、主演のミッキー・ロークそしてマリサ・トメイが来場し、花を飾った。
学校を卒業したときからレスラーの映画を撮りたいと思っていたというダーレン監督が実現にこぎつけた同作は、心臓病を患ってリングから降りたかつてのスター・レスラーが、命をかけて再びリングに戻るという人間ドラマ。実生活でも俳優業がほぼ失業状態になってボクサーに転身し、見事俳優として復活を果たしたロークが主演とあって、リアリティは十分。アカデミー賞主演男優賞の呼び声も高い。

ロークは、「一時本業だったボクシングは、ちゃんとしたルールを学ばないでやったが、レスリングはみっちり3ヶ月プロに習った。レスリングはボクシングと違って、チームプレイのスポーツ。バレーのように他の人とのコラボレーションが大事だから。映画には実際のプロも出演していたからリアリティもあるけれど、怪我が多くて大変だったから、終わってホッとした」と周囲を笑わせた。また迫真の演技については、「実生活でも大きな挫折を味わっているので、役にはすんなりと入っていけた」そうだ。そして、見事な肢体を披露し体あたりでストリッパー役を演じたトメイも怪我の連続だったそうで、「賞をもらうためには、怪我が必要になってきているのではないか?」と問われたダーレン監督は、2人と顔を見合わせて、「僕はそんなつもりはなかったよ」と笑顔で弁解。終始和やかなムードだった。
『トウキョウソナタ』は、小泉今日子、香川照之主演で、東京で暮らす家族4人の崩壊と再生を描いた人間ドラマ。ホラー監督イメージを払拭すべく、新たな才能を見せてくれた黒沢清監督が、記者会見に応じた。
ジャーナリスト達の一番の反応は、「“ホラーの黒沢”がなぜ家族ドラマを撮ったのか?」というもの。しかし、「どうも僕はホラー監督と思われているようですが、日本では色んなジャンルの作品を監督するのが普通で、実際私も色々撮っています。例えば『ドッペルゲンガー』はホラー映画ではないのに、ホラーと宣伝されたので誤解されているようです」と戸惑いを隠せないようだった。またアメリカで、父親が権威を振るい、失業しても家族に話せずに会社に行くふりをする文化にも馴染みのないことから、「あれは、日本の家族のあり方なのか?」との問われ、「リサーチをしたわけではないし、ドキュメンタリーでもないので全部とはいえませんが、かなり当てはまる部分もありますし、また今後起こりうることだと思って描いた」そうだ。「家族の食事の場面にあえて会話を入れなかったことや、会話を極力短くした」ことや、「ラストシーンの音響は最後まで迷い、今でもよかったのかわからない」など、独自の演出方法についても語ってくれた。
「観客がどう捕らえるかも、映画の面白さ」という黒澤監督は、「日本では、身につまされるせいか誰も笑わないのに、カンヌ映画祭では、笑うところではないところで笑いがあった」ことも明かしたが、アメリカでは、タイマーで定期的に携帯電話がなる設定が妙にうけたようで、お国柄を感じさせる反応がおもしろかった。
ヨーロッパの作品は、ハリウッド映画に比べて実生活や人間心理を深く鋭く抉り出した作品が多く、ストーリーも映像も実にリアル。出演者にスターがいないことも現実味を与える要因ではあるものの、実話を基にしたドラマ『Changeling』でさえも、つくづくハリウッド映画だと感じさせられるほどスマートに仕上がっており、ハリウッド(アメリカ映画)の特異性を思い知らされた映画祭となった。これらの作品が、どこまでアカデミー賞など賞レースに参戦するのか、そして来年のラインナップが、今から楽しみだ。
取材・文:なるさわじゅんこ









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