『TOKYO!<シェイキング東京>』ポン・ジュノ監督&香川照之&蒼井優インタビュー
キャスト・スタッフ共に刺激を受けた、ポン・ジュノ監督の“東京の切り取り方”
日時:2008年7月2日(水)
場所:セルリアンタワー東急ホテル
出席者:ポン・ジュノ、香川照之、蒼井優

3人の世界的な監督が“東京”という街をそれぞれの完成で切り取った映画『TOKYO!』。3本のオムニバス作品の上映でラストを飾るのが、ポン・ジュノ監督の<シェイキング東京>だ。ひきこもりを主人公にしたファンタジックなラブストーリーであり、東京の今を繊細に映し出している。そんな<シェイキング東京>はどのような手法で、どんな思いを持って撮られたのだろうか。またメインキャストの2人はその撮影で、どんなことを感じたのだろうか。
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この<シェイキング東京>の撮影に参加して、映画観や東京観が変わった部分はありますか?
■香川:「海外の監督が日本語を聞いているのを見て、いつも「優れた監督は言葉を理解していないのにもかかわらず、どうして“わかる”んだろう?」と思うんですよ。外国語をずっと聞いているのはものすごく疲れるんですが、そんな中でも監督たちは相手が何を言っているのか、ちゃんとわかっているんです。ポン・ジュノ監督もトップレベルの耳を持っていらっしゃって、尚かつモニターの前に座っているだけなのに、役者と同じ感情になってくれるんです。そんな監督を見て「国を越えて、映画はつながることができるんだな」という認識を改めて持ちました。その一方で監督は役者に意外性やドキュメント性を持たせるのが好きな方で、時にリハーサルを行わない手法をとられるんです。そんな風にいろんなやり方を繰り出されるのは、刺激的な体験でした。
撮影では見慣れた場所を無人にして走ったりしたんですが、これは日本人の監督にはない発想だな、と感じました。たとえば山手通りを無人にするなんて、日本の監督では思いつかないでしょう。東京にとって新鮮な感覚を持つ監督だからこそ、できたことだと思います。ラスト近くのシーンを撮影したスロープも、製作の人が「ここでの撮影は無理」と言うような場所なんです。でも監督はあの場所にこだわって撮影したんですね。そういうものも含めて、海外の監督が撮ったんだなぁって思う瞬間は多々ありましたね」
■蒼井:「海外の監督と映画を撮るのは初めてだったんですが、この1人の監督から生まれるモノによって何十人という人が揺さぶられて、いろんなものを引き出されたり、または何かを吸収しようとしていたり……そういうパワーがあまりにもすごくて感動したのをよく覚えています。監督が繰り出したこれまで体験したことのない手法を、あの場にいた日本人スタッフが吸収して、それが日本映画そのものが面白い方向に変わっていくきっかけになるのかなと思うと、とても貴重な瞬間に立ち会えたと思います。
東京の見慣れた風景でも、映画として切り取ることによって全く違う風景に見えるんですよね。自分もよく通るところなのに、映画の場所として登場すると違う場所のように見えて、そこに感覚の“ズレ”が生じるんです。その感覚が奇妙でありながら、心地よくもあって。日本人が撮ったものとは違う風景が見えていると思います」
リハーサルなしの撮影をポン・ジュノ監督が行なった意図は何だったんでしょうか? また香川さんと蒼井さんはそういう撮影手法を体験してどんな感想を持ちましたか?
■ポン:「いつもリハーサルをやらないわけではないんですが、準備されていない状態で生まれる生々しさが好きで、時々リハーサルを行わないことがあるんです。今回撮影期間の中で何度かそういうことがありました。役者やスタッフの方々は当惑されて大変な想いをされるかもしれませんけど、慣れてくると面白く感じられるんじゃないかな」
■香川:「海外の監督はリハーサルなしが割りと当たり前にあるんですよ。“失敗できない本番のためにリハーサルをやらなければならない”っていう発想がないんです。リハーサルか本番かはどうでもよくて、その場で生まれる衝動を見たいんですよ。だからリハーサルをやらずに全てが本番、できなければもう1回撮ればいい……そういう感覚なんだと思うんです。ポン監督の中ではリハーサルと本番の感覚があいまいなんだと思うんですね」
■蒼井:「リハーサルをやったりやらなかったりで、監督が現場の流れを操っていた感覚がありましたね。役者の感情の動きとか衝動とかを切り取るのが映画だと思うんですけど、感情は常に一定の動きをしているわけじゃないですよね。だからテスト、本テスト、本番っていう一定のリズムを常に取る必要はないんです。それを今回、監督に教えてもらった気がします」
ポン・ジュノ監督は初めて東京を訪れた時にはどんなことを感じたのでしょうか。
■ポン:「最初に東京に来たのは2000年10月、東京国際映画祭の時でした。その時は渋谷のホテルに泊まったんですが、渋谷のど真ん中で多くの人がいるのを目の当たりにして興奮を覚えました。その後何度も東京を訪れることになるんですが、その度に受けるのは「どこへ行っても人で溢れかえっている」という印象でした。でもそんなに人がいるのにお互いに触れ合わないようにしていて、とても不思議に感じられたんです。この作品では香川さんのセリフで「人と触れるのが嫌だった」というものがあります。そのセリフが出るシーンでは歩道橋の上で香川さんが通行人とぶつかるんですが、撮影中、「実際はこうではないのにな」と思った記憶があります」
整頓されたひきこもりのセットが非常に印象的でしたが、あのセットはどのように生まれたのでしょうか。
■ポン:「ひきこもりというと散らかった煩雑な部屋をイメージされるかもしれませんが、この映画では反対のものを描き出したかったんです。ここに登場するひきこもりは、ひきこもりであることに高いプライドを持っていて、自分の部屋が“芸術の域に達している”と思うほどの人物です。家の中には幾何学的なパターンや模様が登場し、完璧に整理整頓されています。そしてあの空間はキャラクターの内面の一部でもあるんです。蒼井優さんがあの部屋を見て「ホント、完璧」というセリフを言いますが、そのことであの完璧な世界を夢見るようになり、ひきこもりになっていきます。汗臭いヘルメットをかぶってピザ配達をしている現実にいる彼女にとって、あの部屋は完璧な空間で、憧れたんですね」
香川さんと蒼井さんは表情のみの演技が多かったですが、苦労や工夫した点はありますか。
■香川:「表情の芝居は確かに難しいですね。その質問で1つ思い出したんですけど、この作品では登場人物に名前がありませんが、台本上では役名のところに僕の名前が書いてあるんですよ。「香川は10年ひきこもっている」とか(笑)。でもそう書かれると本当にそういう気分になってくるんですよね。で、監督にこれは偶然こう書いたのかと聞いたら、「『殺人の追憶』でパク・ヘイルにも同じ書き方をしたことがある」っておっしゃるんです。それを聞いたときに、「あ、この人は役者の動かし方を知っている」と思いましたね。確かに「香川」という名前で書かれた台本を読むと、役を作る必要なく「俺、ひきこもりだ」ってパッと入れちゃうんですよ」
■蒼井:「今回は監督のスタートがかかる前に、香川さんの目を見てから演技を始めていたんです。無理に“表現しよう”と意識するより、香川さんの目を見ることで自分の感情の器をギリギリまで満たして、監督のスタートの声でそれが溢れるという感じになるようにしました」
気に入っているシーンを教えてください。
■香川:「気に入っているのは本当に全てのシーン。全てが自分の子どものような感じがしていて……。たとえば11年ぶりに外に出て、その喜びを感じながら走っていくシーンは、監督が言わんとしていることと僕自身がひねり出したことが最も合った瞬間だなぁと思いますし、その後の一連の走ったカットも思い出に残っていますね。ラストシーンでは本当の汗を出すために、近くの神社の階段を登ったり降りたりしていました。だからその汗がラストカットで落ちるのも好きですね。あとカメラマンの福本さんが地震のカットを撮るために箱の中にカメラを入れて揺らしていたんですが、監督の指示に合わせて動きがどんどん芸術的になっていって。その一連の揺れるカットは印象に残っていますね」
■蒼井:「私もラストの汗が落ちるカットはすごく好きです。香川さんは本当にずっと走られていて、「あ、職人さんだ」と思いながら見ていました。格好いいなぁ、どのシーンも良くて、選びたくても選べないですね」
■ポン:「ひきこもりの男が遂に部屋から出て走っていくシーンは、香川さんの表情が徐々に変わっていくんですね。立ち止まるまでさまざまな表情の変化があって、改めて見直してもあのシーンは本当に良かったと思います。蒼井さんも表情に変化が現れるところがあって、それはまさにラストのシーンです。その時の表情は恋が始まろうとするサインではあるんですが、そこで思いっきり笑顔を作ってしまうと緊張感がなくなってしまう気がして、蒼井さんには「観客10人のうち何人かはその変化を見逃してもかまわないから、薄っすらと笑みを浮かべてほしい」と言いました。カメラが激しく揺れる中でそんな微妙な表現ができるのか不安はあったんですが、完成した映像を見ると0.1mmほどの動きを細やかに表現されていましたね」
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『TOKYO!』
配給:ビターズ・エンド
公開:2008年8月16日
劇場情報:シネマライズ、シネ・リーブル池袋ほかにて公開
公式HP:http://www.tokyo-movie.jp
あらすじ<シェイキング東京>
東京のとある街。1人の男が10年間、ひきこもりの生活をしていた。毎週土曜日に注文するピザ屋の配達人とは目を合わせたことがない。しかしある土曜、ふとしたことで男はピザ配達の少女と目を合わせ、それがきっかけで彼の中の何かが揺れ動き始める。再び彼女に会うためにピザを注文すると、やってきたはピザ屋の店長で、少女はバイトを辞めたと教えられた。男は幾度となくためらった後、少女に会うためについに家を飛び出すのだが……。
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プロフィール

ポン・ジュノ
1969年生まれ。韓国映画アカデミー卒業作品『支離滅裂』が話題となり、各地の映画祭に招待され、その名を知られるようにある。劇場長編デビュー作となる『吠える犬は噛まない』(00年)で高い評価を得、『殺人の追憶』(03年)でその評価を不動のものとする。そして06年発表『グエムル-漢江の怪物-』がカンヌ国際映画祭などで絶賛され、世界的な監督としての地位を確立した。『TOKYO!』は自身初の海外監督作品。

香川照之
1965年、東京都生まれ。89年にNHK大河ドラマ「春日局」でデビューすると、その後国内外を問わず活躍。『犬、走る DOG RACE』(98年)、『独立少年合唱団』(00年)、『鬼が来た!』(02年)、『故郷の香り』(03年)、『赤い月』(04年)、『北の零年』(05年)、『ゆれる』(06年)、『キサラギ』(07年)など出演作多数。08年も出演作『ザ・マジックアワー』、『闘茶 tea fight』、『20世紀少年』、『トウキョウソナタ』が公開される。

蒼井優
1985年、福岡県生まれ。01年『リリィ・シュシュのすべて』でスクリーンデビュー。その後『1980』(03年)、『花とアリス』(04年)、『ニライカナイからの手紙』(05年)、『ハチミツとクローバー』(06年)などに出演。そして『フラガール』(06年)での好演は各方面で話題となり、日本アカデミー最優秀助演女優賞など数多くの賞を受賞した。




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