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2010年4月22日 (木)

日曜はダメよ

晴乃の総合評価:3.5(5点満点)

『日曜はダメよ』

Never


1960年に製作されたギリシア映画で、アテネから南西へおよそ10キロ、地下鉄だとアテネ中心部から20分ほどで着くピレウスという港町が舞台になった作品です。

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まずはこのピレウス港に触れておくと、アテネの外港としての歴史は古く、遡るとなんと紀元前490年にもなります。現在は商業港としての役割が主で旅行客にとってはエーゲ海の島々へ船出する港として一度は立ち寄る場所になっているものの、お世辞にも洗練された港とは言えず、なんとなくどんよりした雰囲気が漂っていて、場末の港町という印象を拭えませんでした。

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映画の中で、このピレウスに住む娼婦のイリアが、『世界中どこを探したって、こんな港は他にないの。 私を虜にする不思議な力を持つピレウス』と、ピレウスへの愛を歌っています。この主題歌 『Never on Sunday』 は、1960年に外国映画で初のアカデミー歌曲賞を受賞しています。イリアが見えていた素晴らしいピレウス、でも私には見えなかったピレウスの魅力とは何なのか、旅を通して考えてみました。

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その前にストーリーを簡単にまとめると、ピレウスに住む娼婦のイリアと、アメリカからやってきた哲学者ホーマーとのドタバタ恋愛物語が軸にあります。ホーマーは、古代ギリシア文明が最高のものであるという価値観を持ち、『なぜそんなに素晴らしいギリシアが、衰退してしまったのか』その真実を見つける旅にやってきたのです。そこでイリアと出会い、ギリシア語、英語、フランス語、イタリア語など、あらゆる言語が堪能な彼女に興味を抱きます。しかし彼女が娼婦だと知り、ギリシアの衰退と彼女の生態には何か共通項があるのではないかという仮説を立てるのです。彼女の気品、容姿、素養、持っているものは実に素晴らしいのに、娼婦を生業にしているイリアは、衰退した現代ギリシアそのものであると、ホーマーの目には映ったのです。そして、イリアに彼の受けてきた教育や文化、思想を教え、“マイフェア・レディ”の如く善導していこうとするのですが、あえなく失敗。彼自身がイリアの自由な生き方や彼女の価値観に影響を受けることになるのです。


この映画から感じるのは、人の価値観を変えることの難しさと、自分の持つ価値観が全てではないということ。そして、他人との“違い”を受け入れることから、双方の理解が始まるという、いつの時代も変わらない当たり前のこと。でも、意外と忘れがちな大切ことです。


イリアが娼婦であることはホーマーからみれば、不幸なことであるのに対して、当事者のイリアからは、自分の職業に対して悲哀めいたものを何一つ感じません。むしろ劇中のイリアは常に生き生きとしていて娼婦に誇りすら持っているように見えます。それは、“どんなに大金を積まれようが自分が気に入らない客はとらない”と彼女自身が公言していることからも分かるはずです。また、日曜日には仕事を休み、仲間と大いに飲み歌い踊り、アテネ中心部まで古典ギリシア悲劇の舞台を観に行くなど、充実した日々を送っている彼女が、自分の生き方を恥じているとは到底思えません。彼女の底抜けの明るさはギリシアという土地が育んだものでしょう。

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作品中にはギリシア人の文化や気質を表したシーンが数多く登場します。例えば、アメリカ人ホーマーが、タベルナにやって来るシーン。“タベルナ”(Tavern)とは、ギリシア語でレストランよりカジュアルな『食堂』を意味します。この映画を観ると、ギリシア人にとってタベルナはある種、“居間である”と感じるはず。食を楽しみ、気の合った仲間と集まりお喋りすること、歌うこと、踊ること、これらは彼らの生きるスタイルとも言えます。

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物語は、そんな人生を謳歌しているローカル人たちが食べたり飲んだりして騒ぐタベルナに、異質なアメリカ人男が紛れ込み、こともあろうか英語でアメリカンコーヒーだけを注文するシーンから始まります。カメラは、怪訝そうなウェイターの顔を捉えます。

ギリシアには古代より『フィロクセニア(外国人を手厚くもてなす)』という言葉があるそうで、旅行客に対して親切な人が多いと聞いたことがありますが、さすがにタベルナをカフェ代わりにしようとしているホーマーの注文にウェイターも怒り心頭。『ギリシアでは本物の男はウゾを飲む!』とホーマーを馬鹿にします。それでもアメリカンコーヒーを頼んだ彼に、『ギリシアコーヒー!!』と怒鳴りつけるシーンは実に印象的。

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ちなみに、このウゾですが私も話のネタに注文してみました。ワインを造ったあとのブドウの搾りかすを蒸留して造ったギリシアならではのお酒で、 グラスを鼻に近づけた瞬間に、プーンと香草の強い香りがします。 ハッカに近い香りでしたが、なんの植物か調べてみたところ、ギリシア・エジプトの原産で、地中海地方で栽培されているアニスというセリ科の植物だということが判明。一口含んで、これは絶対に飲めないわ・・・と思いました。なんと、40度もあるそうです。確かに、『本物の男』しか飲めないはずだと納得のお味でした。ストーリー後半には、ホーマーがウゾを次々におかわりし、『本物の男』を証明するシーンも登場します。アメリカ人としての価値観に固執していたホーマーの心の変化が顕著に表れたシーンでもありますね。


そしてもう一つギリシア独特の文化を感じたシーンがありました。ホーマーがタベルナで踊りだしたギリシア人のダンスを見て拍手をすると、ダンスを踊っていた相手が激怒。殴りかかってくるシーンです。イリアが仲介に入りお互いの言い分を通訳して事情が分かるのですが、“ギリシア人は自分のためにダンスを踊るのであって、それは自分の魂に従い満足するためにすることで、他人のためには踊らない”というのです。しかし、ホーマーは男の踊るダンスが気に入って賛辞の意味で拍手をしたのですが、相手にしてみれば馬鹿にされたと思ったわけです。


単一の文化しかしらず、その価値観が全てだと思い込むことは危険だと痛感します。“郷に入れば郷に従え”。私がピレウスの魅力や素晴らしさを感じる心が持てなかったのも、“美しい港”、“エーゲ海の玄関口はきっとこういう場所である”という既成概念や偏見に囚われたために、見えない景色があったのかもしれません。イリアが『世界中どこを探したって、こんな港は他にないの。私を虜にする不思議な力を持つピレウス』と歌う港町ピレウス。いつかもう一度、行ってみたくなりました。イリアのように自由に、あるがままの感情に従って素直に生きられる人は少ないけれど、ホーマーのように頭でっかちなだけの知識人であることは、時に哀れに感じました。

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*アテネ旅行記*

参考に、合わせてご覧ください♪

■ ギリシャ・アテネの旅①~プラカ地区観光編~
■ ギリシャ・アテネの旅②~エギナ島観光編~
■ ギリシャ・アテネの旅③~食編~
■ ギリシャ・アテネの旅・最終回~野良イヌ天国編~

*サイド情報*

■メリナ・メルクーリは、本作でカンヌ国際映画祭の主演女優賞を受賞。

■出演と監督を兼ねた名匠ジュールズ・ダッシンは、50年代赤狩りでアメリカから亡命し、フランスからギリシャに拠点を移したギリシャ民主化の活動家でもあります。後に本作のヒロイン、メリナ・メルクーリと結婚(66年)。

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コメント

土屋さん、ベルリン生活が始まり、1ヶ月が経過しましたが、お元気ですか。夫婦生活も楽しく充実しているようですね。
 アテネの港や自然の写真も環境が良く、素敵な景色ですね。
映画の世界も土屋さんにとって、思い出がたくさんありますね。
 土屋さんもいずれは、お母様になる日が来るかもしれませんね。
 素敵なGWやベルリン生活、お楽しみ下さい。
 

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