『海角七号君想う、国境の南』田中千絵 インタビュー

『海角七号君想う、国境の南』田中千絵 インタビュー

1940年代と現代の台湾を舞台に、約60年間届かなかったラブレターが2つの時代の恋物語をつなぐ、切ないラブストーリー『海角七号/君想う、国境の南』

2008年8月に台湾で公開されて以来、日を追うごとに動員数を伸ばしロングランとなった本作は、台湾映画の興行成績を塗り替えた話題作だ。

監督・脚本は名匠エドワード・ヤンに師事しキャリアを積んできたウェイ・ダーション。60年前の悲恋物語と現代に生きる若者の姿を、見事な筆致で感動的につなぎ合わせた。

主演は人気歌手で映画初出演のファン・イーチュンと、日本人女優の田中千絵。歌手・中孝介が、本人役と60年前の日本人教師役の2役で出演しており、さらに持ち前の優しい歌声を披露しているところにも注目してほしい。

今回は本作のヒロイン友子を演じられた田中千絵さんにお話を伺いました。

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台湾でお仕事なされるキッカケは?

『海角七号君想う、国境の南』田中千絵 インタビュー■田中千絵(以下、田中):「キッカケになったのは本作なんですよね(笑)。中学生の時に日本でデビューして、それから10年間ドラマや映画に出演していました。その時に香港で製作された『頭文字(イニシャル)D THE MOVIE』に出演しまして、その時に一言も中国を話せなくスタッフやキャストの方々とのコミュニケーションがとれない事に悔しさを覚えたんです。撮影時にもアンドリュー・ラウ監督に「今後アジア映画のマーケットはどんどん広がって行く。是非中国を勉強して欲しい」と言われ、本格的に中国語勉強しようと2006年に8ヶ月間語学留学しました。
そして留学が終わる2週間前に本作のオーディションのお話をいただきました。本作の監督であるウェイ・ダーション監督は、中国語が出来る日本人女性を探していたのですが中々見つからず、日本から知名度のある女優さんにお願いしようとも考えられてたようです。ただ、それだと1から中国語を教えないといけなく、時間も掛かるし現実的ではない。台湾で活躍している日本人は多くいるのですが、皆さんバラエティーの方で映画界にとって新鮮味が無いと思われたようなんです。
本当に困り果てて「中国語が話せる日本人なら、素人でもいいからつれて来い!」と監督が広い範囲でオーディションしてたんですね。丁度そのとき、日本語と中国語でブログを更新してて、それを監督が発見しオーディションに参加して、本作に出演する事が決まりました」


日本の現場と台湾の現場では、やはり勝手が違いますか?

■田中:「映画作りへの思いは根本的に一緒だと思うんです。ただ台湾だとスタッフとキャストの間に変な距離感が無いんですよ。ジェイ・チョウさんと共演した時もまるで家族のような温かさを感じました。いわゆる日本の建前みたいなものはなく、良くも悪くもすごく直接的で素直なんです。そこにすごく魅力を感じました。それのおかげで何の苦労も無く役に集中する事ができましたよ」


劇中では「日本人は面倒だ!」という台詞がありますが、台湾の方からみた日本人はどのようなものなのでしょうか?

■田中:「台湾の方は日本人の事を真面目で、礼儀があって、優しいといってくれます。その一方、日本人は真面目すぎるという意見もあります。融通がきかないというか。
台湾だと撮影がスケジュール通りにいかなくとも、そんなに慌てないんですよ(笑)。それが普通になってて。
日本にいる時って、待ち合わせの時間は厳守で、遅れるという事が許せなかったんですね。実際私も結構融通のきかない性格で、台湾の生活に慣れるにつれて、自分はガチガチだったんだなとすごく分かったんです。
私は台湾で生活する事によって物凄く心に余裕が出来たと思っています。それは役者としてもプラスになった事ですね」


プレスにあるウェイ監督のインタビューで「“60年間書きとめておいたラブレター”が本作のキーワードですが、あれは日本人だからこそ書きとめておけるもので、台湾人だったらすぐに出してしまう」と語っていました。この事から日本人男性と台湾人男性の恋愛に対するアプローチが違うと思ったのですが、本当のところどうなのでしょうか?

■田中:「台湾人男性は恥かしがり屋な方が多いですね。その分女性が物凄く行動的で(笑)」


監督の意見とは真逆ですね(笑)

■田中:「日本では“引く”事を美とする文化がありますが、台湾だとそれに対して美意識を感じることは無いんですよね。だから監督が仰っている事も良く分かるんです。
今現在の台湾の若い男の子って、恥かしがり屋で素朴な方が本当に多いんですよ。それがすごく可愛らしいんです(笑)。台湾って結婚したからといって、女性が専業主婦になるわけではなく、共働きが多いんです。みなさんエネルギッシュですね」


草食系男子という言葉がありますが、それに似たようなものなのでしょうか?

■田中:「そこまでは無いですね(笑)。日本が両極端なんだと思います。付き合う年数も長くて、平均10年とかなんですよ。日本のようにすぐに相手を変えるって事はまずないですね。日本では付き合うことが大人になるステップアップだと、ちょっと履き違えてる子が多いような気がして、もっと純粋に付き合う事をしても良いような気がします。それは私が日本を離れて感じるようになったことですね」


口コミで大ヒットした本作ですが、ヒットする状況を目の当たりにされての感想をお聞かせ下さい

■田中:「クランクイン時からそうだったのですが、本作は台湾の映画製作費としてはかなり高額な5000万台湾ドル(約1億5000万円)で製作されています。制作費は高額なのですが、有名な俳優がキャスティングされているわけではないし、もちろん私もほぼ無名に近い状態でしたので。ウェイ監督も長編初監督で、周りの人はだれも「何でこんなに高額な製作費?」と理解しなかったんです。ある意味誰からも期待されていない映画でした。
だから台北の映画祭でグランプリをとるまで気が休まる事はなかったですね。その間監督、スタッフさんが一番苦労されてたと思います。ですので、グランプリをとった時は本当に嬉しかった。
そこから口コミで広まって、大ヒットまで繋がり、素直に嬉しかったですね。監督の一生懸命な姿や、それを誠意一杯支えてたスタッフさんの姿をみているので、さらにかもしれません」


大ヒットにより、台湾における田中さんの認知度も高くなったのではないでしょうか。田中さんはブログをやられていますが、そこでの反響も大きかったのでは?

■田中:「ほんとすごい反響でした!上映する前は一日のアクセスもそんなになかったのですが、映画がヒットしたと同時に、一日に10万アクセスくらいあって。ただ当初は自分の認知度がどれ程上がっているか正直実感できませんでしたね。
そうしているうちに、地下鉄での移動中にバレてしまったり、そういうのがちょくちょく起きてきて徐々に行動範囲が狭くなっていきました(笑)。
最初は地下鉄に乗れなくなり、普通にショッピングも出来なくなって。バレたら急遽サイン会みたいな事になったりもしました(笑)。
そんな感じで、自分自身でも認知度が上がっていく様を体感してましたね」


ファンクラブも出来たみたいですね

■田中:「今年の2月に出来ました。中国でも公式ブログが立ち上がったんですよ」


本作はほぼ素人の方もキャスティングされて、主要キャストとして演じられていますが、その事で田中さんご自身が演じやすかった事、演じ難かった事はありますか?

■田中:「演じ難かった事は特にないですね。ウェイ監督のキャスティングが本当に素晴らしかったんです。役にあった方をキャスティングされて、現場でのオン・オフも皆役のまんまなんですよね(笑)。なので私も無理なく役に入っていく事が出来ました。逆に色んな要素が絡まって助けられましたね」


友子を演じるにあたって気をつけたことはありますか?

■田中:「ウェイ監督は自由に演技できる空間を提供してくださったので、監督が「こんな演技をして欲しい」というのは一切なかったんですよ。
ただ、脚本を読むと友子が何でこんな性格なんだろう?何でこんな行動をとるのだろう?と理解できませんでした。でも脚本を読めば読むほど彼女を理解する事が出来たんですね。
彼女が常にイライラしているのは彼女が元々そういった性格ってわけじゃなく、一人で台湾で仕事をし、そして意見の食い違いで周りの人とぶつかり合ってしまう。私と同じような境遇なんですよ。
それに彼女は強がりで、自分の弱さを見せられない。そのストレスがああいった行動に現れてしまうんだと思います。でも彼女は本当は寂しくて、ホームシックにもなるし、そういった一面をみて「観客の方々が友子を愛して欲しい!」と思ったんですよね。
そんな風に考えるようになった時に、友子の弱い部分をあえて見つけて、印象に残るように演じるようにしました。友子はよくうずくまって寝ます。それは常に安心感が無いというのを表現しています。そういった細かな部分は、監督と相談して友子像を作り上げていきました」


今回田中さんとお会いして、友子とのギャップにビックリしました。演じる事は大変ではなかったですか?

■田中:「そうですね。私の中でも友子はひとつのチャレンジでした。日本では優しい性格役やお嬢様的な役を演じることが殆どだったので。あそこまで大胆で、泣き叫ぶキャラクターは初めてで、オーディションの時には「絶対に演じたい!」と思いましたね。
それに私自身、友子に共感できる部分が多かったのもあります。“強くなくては異国で生きていけない”というのはもちろん、私も感情を表に出して泣きたい時は泣く性格なので。
友子が酔っ払って主人公アガ(ファン・イーチェン)の家のガラスを割るシーンは、本編中でもとても重要なシーンですし、私にとっても大切なシーンでした。あのシーンの撮影が緊張しましたね。時間をかけて気持ちを作っていきました」


もう一度友子のような役を演じてみたいですか?

■田中:「是非!でも役者なのでひとつの役に限らず、色んな役を演じてみたいですね。それはアクションもそうですし、いつか中国語がペラペラな中国人の役も演じてみたいですね。作品ごとに違った田中千絵を皆さんに観ていただきたいです」


今はネイティヴな中国語に近づいていますか?

■田中:「本作の撮影時よりは上手くなっていると思います…」

■マネージャーさん:「上手くなってます!」

■田中:「(笑)。と言っておりますので、少しは上達してますね」


主人公アガを演じられたファン・イーチェンさんと共演されていかがでしたか?

■田中:「実は彼との縁が非常に面白くて。私が語学留学していたときに彼が連ドラに出演していて、私はそれを観て中国語を勉強したんです。ドラマは語学を勉強している者にとって教科書よりも日常的な会話が身に付くので、とてもためになるんです。
そして彼がアガを演じると聞いて、すごくピッタリだなと思いました。さらに彼の歌声がアガにすごくマッチするんですよね。そんなのもあって、自然に感情を作る事ができて演技しやすかったです」


本作はラブレターがキーアイテムですが、田中さんでしたらどのようなラブレター・告白がいいですか!?

■田中:「お手紙も嬉しいのですが、私はロマンチックなしし座なので(笑)。すごくロマンチックなシチュエーションを求めてしまうかもしれません。それは高価な物とかではなく、心の篭ったサプライズでしたらすぐに感動してしまいますね(笑)」


今後アジア圏で活動する上で、具体的なビジョンがありましたらお聞かせ下さい

■田中:「つい先日、中国進出の第1弾となる映画『愛情36計(原題)』がクランクアップしたのですが、私は良い脚本・良い役に出会える事を一番重要視しています。それは台湾・中国に限らず日本であっても、中国語と日本語を話せるというのが私の一番の武器なので、それを活かしてアジア圏で田中千絵を皆さんに知って頂くのが一番の目標です。

好きな女優にオードリー・ヘプバーンやマギー・チャンがいまして、女優としても素晴らしい功績があるのですが、人としても魅力を感じています。
オードリーは亡くなる前に自分の名前を自分で利用して、多くの子供たちをチャリティーで救いました。マギー・チャンは近年は映画にあまり出演していませんが、チャリティー活動をされていて、女優でありながら一人の女性として尊敬しています。

8月8日に台湾で台風のため水害があり、本作のロケで使った台湾南部もひどい被害をうけました。今台湾でドラマに出演しているのですが、その1話分のギャラを寄附させていただこうと考えています。それと台湾で親がいない兄弟の養育費を寄附していただくチャリティー団体のイメージキャラクターにも任命させていただきました。
ですので女優もやりつつそういったチャリティー活動もしていきたいと思っています」

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『海角七号/君想う、国境の南』
配給:ザジフィルムズ、マグザム
公開:2009年12月26日
劇場:シネスイッチ銀座ほか全国にて順次公開
公式HP:http://www.kaikaku7.jp/

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